グリコヘモグロビン分析計

異常ヘモグロビン

● 異常ヘモグロビン

ヘモグロビン (Hb) は141個のアミノ酸よりなるα鎖グロビン2本と、146個のアミノ酸よりなる非α鎖(β鎖、γ鎖、δ鎖)グロビン2本よりなる4量体のタンパク質で、それぞれのサブユニットにヘムを内蔵することで安定化した構造をとっています。
出生前には、α
2γ2よりなるHbFがほとんどですが、出生直後からγ鎖に代わりβ鎖の産生が優位となるためα2β2よりなる成人型HbAが産生されるようになります。成人のHb組成は、通常 HbA : HbF : HbA2 (α2δ2) = 95~96 : 1.5 : 2~3 といわれ、そのほとんどはHbA (HbA0)です。

異常Hb(仮にHbVと呼ぶことにします)とは、Hb分子を構成するα鎖グロビンあるいはβ鎖グロビンのアミノ酸配列にアミノ酸置換、脱落、挿入がみられるものや、遺伝子融合による融合グロビン鎖を含んだもののように、その構成成分が通常とは異なるものをいいます。
HbVの構成アミノ酸がHbAとは異なることにより、HbVの検索には、アミノ酸の変換による分子のもつ電荷差を基にした電気泳動法、HPLC法などや、遺伝子解析による方法などが用いられます。 ヘモグロビンAの構造

HbVは遺伝的に受け継がれることがほとんどで、数百種類が見つかっていますが、その多くは日常生活に支障を与えないものです。ただし、種類によっては赤血球の形体異常を引き起こすもの(鎌状赤血球症など)、αグロビンやβグロビンの合成異常を引き起こすもの(サラセミア症)、溶血性貧血を引き起こすものなどもあるため注意が必要です。HbS、HbCと呼ばれるものは良く知られています。

高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によるHbA1cの測定は、【HbA1cの測定原理】の項に示したように、陽イオン交換カラムを用いますので、分子のもつ電荷はそれぞれの成分の分離に重要なファクターとなります。

HbVの持つ電荷をみたとき、HbAよりプラス電荷が大きければHbAより遅く、またHbAよりプラス電荷が小さければHbAより早く溶出されることになります。一方、HbVを有する場合、HbVにグルコースの結合したHbV1c(仮称)が存在し、そのHPLCでの溶出位置は、HbVの荷電の状態によりHbA1cより遅くまたは早く溶出されます。上述したようにHbVの種類は多く、HbVの種類によってさまざまな溶出パターンを示します。

 
        異常ヘモグロビンのクロマトグラム イメージ

                   
      HLC-723シリーズのクロマトグラム例(左:正常、中、右:異常ヘモグロビン症)
      (ここでのV0ピークは、A0ピークと重なっています。)
      この時、同定されたHbA1cは、HbV1cの分だけ低く測定されることとなります。

 したがってHbVが存在する場合、HPLC法でHbA1cの正しい値を得ることができません。
クロマトグラムをチェックすることが重要です。また、クロマトグラムのチェックによりHbVを有していることが見つかることも稀ではありません。



参考文献
1) 日本人の異常ヘモグロビン症 原野昭雄 自然科学社