● 日本におけるHbA1cの標準化 日本においてHbA1cの標準化は、施設間における値の相違の問題により提起されました。当時、施設間差はCV%として10.5%ほどあり、その原因には、不安定型HbA1cを含むか含まないかという点、および測定機器メーカー間差が認められる点の2点が考えられました。
そこで、日本糖尿病学会(以下糖尿病学会)は、HbA1cの測定には不安定型HbA1cを除去して、安定型HbA1cのみを測定するように勧告し、また、上位標準品(JDSキャリブレータ)による補正(JDS値)を行う標準化を行いました。その結果、施設間差は是正され臨床的に許容できる変動幅まで改善されました。
糖尿病学会は標準化後、HbA1cの基準範囲(正常値)を決定しました。この時、糖尿病学会が勧告したHbA1cの基準範囲は 4.3~5.8% です。また、Kumamoto Studyなどの大規模調査においてもJDS値が用いられ、糖尿病の治療目標などが設定されました。
以降、JDSキャリブレータはロットを重ねましたが、この時の値を継承しています。
その後、実施された特定健康診査(通称メタボ健診)においてもJDS値を使用しています。 また、糖尿病の診断基準にHbA1cが取り入れられ HbA1c%≧6.1% で糖尿病型と診断されることになったのもJDS値によるものです。しかしながら、このJDS値は、米国を中心に広く世界で使用されているNGSP値と相違があることがわかっていました。
日本で測定されるHbA1cと海外で測定されるHbA1cの値に相違があることは、臨床的に、また昨今の国際標準化の観点から好ましいことではありませんので、糖尿病学会は、2012年4月1日以降、日常臨床においては、NGSP値を使用することと決定しました。
JDS値とNGSP値との関係は
HbA1c(NGSP) = 1.02 x HbA1c(JDS) + 0.25% です。
正常値は 4.6~6.2% となりました。
診断基準も ≧6.5% となりました。
一方、特定健康診査を含む検診・健診事業においては、JDS値が引き続き使用されることになり、臨床の場で、あるいはデータを示す場合においてはHbA1c測定値が、どちらの基準によるものなのかを明確にする必要が生じました。測定結果にはHbA1c(NGSP)、HbA1c(JDS)と明記することとなりました。
つづいて、2012年10月には、糖尿病学会および厚生労働省より、2013年4月以降、特定健康診査などの検診・健診においても、HbA1c値はNGSP値を使用することが決定し、通達されました。
さらに、2014年4月以降は、日本国内におけるすべてのHbA1c測定でJDS値の使用をやめる(NGSP値に一本化される)予定となっています。
2012年3月31日以前 2014年4月1日以降
● NGSP値
1983年より、米国・カナダにおいてDiabetes Control and Complication Trial(DCCT)と呼ばれる大規模調査が実施されました。糖尿病患者における血糖コントロールがその後の合併症の発症や進展にどう影響されるかという調査で、1400人もの患者さんが10年間参加し、貴重なデータが得られたものです。
その時、測定されたHbA1cは、すべて1施設(ミズーリ大学のラボ)においてHPLC法で測定されました(不安定型HbA1cは除去)。
それによればHbA1cをコントロールし平均7%に維持した群は、維持しない群に比べて明らかに糖尿病性網膜症などの合併症の発症を抑えられたとしています。
DCCTで得られた測定値を継続的に使用できるように定めた基準がNational Glycohemoglobin Standardization Program (NGSP)で、それにより得られる値がNGSP値です。
NGSP値は北米だけでなくヨーロッパ、アジアをはじめ世界の広い範囲で使用されています。
NGSP値を得るには、NGSP基準施設のプログラムによるNGSP認証を受けている必要があります。東ソーのグリコヘモグロビン分析計HLC-723シリーズは、すべてNGSP認証を受けています。
● IFCC値 国際臨床化学会(Internatonal Federation of Clinical Chemistry and Medicin : IFCC) は、科学的根拠に基づいたHbA1cの標準化を提唱しています。
HbA1cは、ヘモグロビンのβ鎖のN末端にグルコースがひとつ結合したものと定義され、測定単位はSI単位である mmol/mol を使用します。
さらに、標準物質には精製されたHbA1c(安定型A1c)とA0のペプチドから構成されたP-Calが設定されています。
上記NGSP値との関係は
IFCC(mmol/mol) = 10.93 x NGSP(%) - 23.5です。
世界的にみて、現在使用されている国や地域は限定されますが、科学的に決定された基準を用いるため、臨床データ等の充実がなされれば、世界的標準化の指針になる可能性を持っています。
東ソーのグリコヘモグロビン分析計HLC-723シリーズは、IFCCの機関のプログラムに参加しIFCC認証を受けています。
参考文献
1)日本糖尿病対策推進協議会 小冊子
2)糖尿病治療ガイド 2012-2013 日本糖尿病学会編 文光堂
"HLC" "HLC-723" "TSKgel" は日本およびその他の国における東ソー株式会社の登録商標です。
ページを閉じる